『春に』~9E~ ※8年生は4クラスのため、ありません。
- 公開日
- 2025/10/22
- 更新日
- 2025/10/22
日々の様子
9年E組『春に』
1. 基本情報
作詞者: 谷川 俊太郎(たにかわ しゅんたろう)
もともとは詩集『どきん』に収録されていた詩で、中学校の国語の教科書にも採用されていました。
作曲者: 木下 牧子(きのした まきこ)
日本の現代合唱界を代表する作曲家の一人です。
曲集: 合唱曲集『地平線のかなたへ』の収録曲の一つです。この曲集には他に
「サッカーによせて」「二十億光年の孤独」「卒業式」「ネロ」などが含まれています。
編成: 混声三部合唱(Soprano, Alto, 男声)版が最も広く歌われています。その他、混声四部版もあります。
2. 楽曲のテーマと特徴
「春に」というタイトルにもかかわらず、単に明るい春の到来を歌うだけでなく、
思春期特有の複雑で揺れ動く感情を表現しているのが大きな特徴です。
テーマ: 期待と不安、静止と行動の葛藤
「地平線のかなたへと歩きつづけたい/そのくせこの草の上でじっとしていたい」という、相反する願望が並列され、
卒業や進級を控えた中高生の心の揺れを見事に描き出しています。
表現:
曲は全体的に緩やかで静かな始まり(pp)から、感情の高まり(ff)へと変化するドラマチックな構成を持っています。
「声にならない さけびとなって こみあげる この気もちは なんだろう」というクライマックスに向けて、
繊細な表現と力強い表現の対比が求められます。
音楽的なポイント:
細かな音符(16分音符など)が多く使われており、
これらの音の粒立ちとアンサンブルの正確性が重要になります。
転調(調性の変化)が非常に繊細で美しく、
この転調部分を和音の響きとして感じ取ることが、感動的な演奏に繋がります。
3. 詩の解釈(「この気もちはなんだろう」)
詩の核となる「この気もちはなんだろう」は、
単純な感情ではなく、様々な感情の混在を指していると解釈されます。
新しい世界への憧れや期待
慣れ親しんだ場所を離れることへの寂しさや不安
大人への移行期特有の、理由の分からないいら立ちやもどかしさ
これらの複雑な感情を表現することが、この曲の合唱における最大のポイントとなります。
1. 冒頭〜「この気もちはなんだろう」の表現
この曲の核であり、最も繊細さが求められる部分です。
静けさの徹底と響きのパイプ:
冒頭は非常に弱く($pp$)歌われます。
「この気もちはなんだろう」の「だろー」の「ー(伸ばす音)」は、ただ音を伸ばすのではなく、
響きのパイプ(共鳴)をしっかりと保ちながら息を流し続ける意識が重要です。
鼻腔共鳴(ハミング)の響きを意識すると、柔らかな響きが生まれやすいです。
16分音符のリズム統一:
「目に見えない」「エネルギー」など、細かく速い16分音符のリズムは、
パート全員のタテ(縦のリズム)を完全に揃えることが、透明感のある響きにつながります。
言葉を早口にせず、拍に乗せて粒を揃える意識を持ちましょう。
問いかけの強調:
「この気もちはなんだろう」は、繰り返されるごとに、感情をより深く込めて歌いましょう。
特に2回目は、単調にならないよう、内面の葛藤を強めて表現します。
2. 中間部(転調部分)の色彩感
曲の雰囲気が一変し、調性(キー)が変化する(転調)部分です。
繊細なハーモニーと転調の色合い:♭(フラット)が多くなり、暗く繊細な色合いに変わります。
ここでは、和音の変化に伴う響きの美しさを大切にし、音程(ピッチ)を安定させて調性の移り変わりを表現します。
ここも$pp$(ピアニッシモ/とても弱く)が指定されていることが多く、柔らかいタッチで歌います。
言葉の対比の意識:
「喜び/悲しみ」「いら立ち/安らぎ」「憧れ/怒り」など、相反する感情の言葉が出てきます。
それぞれの言葉が持つ意味を理解し、歌い方や表情を連動させることで、心の揺れを表現します。
例:「喜び」は明るく、「悲しみ」は深く、といった感情のコントラストをつけます。
3. クライマックスへの盛り上がり内面的な願望が爆発する、曲の最大の山場です。
強い願望の表現:「手をひたしたい」「会ってみたい」「話してみたい」「歩きつづけたい」など、様々な願望が次々と現れます。
これらの願望を自分の心からの願いと重ね合わせ、エネルギーを高めながら歌い進めます。
クレシェンドのエネルギー:クライマックスの「声にならない さけびとなって こみあげる」へ向けて、
高まった気持ちのエネルギーが自然と$f$(フォルテ)や$ff$(フォルティッシモ)の力強さにつながるように歌います。
「さけびとなって」の表現:
「さけびとなって」の「て」の後の休符には、
音符がないにもかかわらず強い音楽的なエネルギーが詰まっています。
音符のない部分こそ、感情の極致として表現しましょう。
4. 全体を通しての注意点テンポの安定:
全体的にゆったりとした雰囲気なので、焦らずに一定のテンポを保つことが重要です。
指揮をよく見て、落ち着いた流れを作りましょう。
言葉のメリハリ:
子音を意識してはっきりと発音することで、聴衆に言葉が明確に伝わり、
詩の世界に入り込ませることができます。
「春に」は、卒業前の生徒が抱える「憧れと不安」「歩き出したい気持ちと、じっとしていたい気持ち」
という内面の葛藤を描いているため、この心の揺れを表現しきることが感動の鍵となります。
1. 徹底的な「心の機微」の表現(歌詞の深化)
この曲の感動は、谷川俊太郎の詩の解釈にかかっています。
「この気もちはなんだろう」の問いかけ
:冒頭のフレーズは、答えが出ない問いかけです。
ただ小さく歌うのではなく、内面を探るような繊細な緊張感を込めます。
特に2回繰り返す部分は、単調にならず、問いかけがより深まるように、感情のエネルギーを増幅させましょう。
相反する感情の対比:
中間部の「喜び/悲しみ」「いら立ち/安らぎ」「憧れ/怒り」などの言葉は、
単なる音として歌うのではなく、それぞれの感情の色を声色や表情に反映させます。
例:「喜び」は明るく響かせ、「悲しみ」は深く沈んだ響きを意識するなど。
「歩きつづけたい」と「じっとしていたい」の葛藤:
この対比を明確に表現することで、曲にドラマが生まれます。
「歩きつづけたい」:未来への強い意志とエネルギーを込めます。
「じっとしていたい」:過去や今への愛着、留まりたい願望を、優しく、時には切なく歌います。
2. ダイナミクス(強弱)による劇的な演出$pp$(ピアニッシモ)から$ff$(フォルティッシモ)までの、
木下牧子作品特有の大きな強弱差を最大限に活かします。
究極のピアニッシモ($pp$):曲の始まりや転調後の静かな場面(「枝の先の...」など)は、
息が通るか通らないかという極限の弱さで、透明感と緊張感のある響きを目指します。
この静けさが、後の爆発的な高まりを際立たせます。
クライマックスへの爆発的な高まり:
「声にならない さけびとなって こみあげる」
へ向かうクレシェンドは、
クラスの全エネルギーを傾けます。
音量を上げるだけでなく、前傾姿勢や
目力で聴衆に訴えかけるような
圧倒的な力強さを表現します。
3. ハーモニーとリズムの精密さ繊細で複雑なハーモニーを美しく響かせることが、感動の基礎です。
16分音符の「タテ」の統一:
「目に見えない」「エネルギー」など、細かい16分音符のリズムは、
全員の言葉の頭と音の立ち上がりを完全に揃えることが最重要です。
粒が揃うことで、乱れのない美しい「流れ」が生まれます。
転調部分の美しい和音:
曲中にある調性の変化(転調)の瞬間は、特に和音の響きに集中します。
全員がピッチ(音程)を正確に取り、和音が美しく溶け合う瞬間を創り出すことで、
色彩感のある感動的な響きになります。
「間(ま)」とブレスの統一:
休符(間)はただ止まるのではなく、直前の響きの余韻を共有する時間です。
特に歌い出し前のブレスは、指揮者と歌い手全員が同じタイミングで
深く吸い込むことで、演奏への集中力を高めます。
4. 身体を使った表現感動は、歌声だけでなく、歌い手の姿勢や表情からも伝わります。
指揮者と歌い手の精神的な繋がり:
歌い手が指揮者の表情やジェスチャーに敏感に反応し、
表現を共有することで、感情の波が一瞬で客席に伝わります。
特にクライマックスでは、指揮者の表現に呼応して、歌い手も前のめりになるくらいのエネルギーをぶつけましょう。
表情筋の活用:
たとえ悲しい歌詞でも、口角を少し上げる、
目を大きく開けるなどの表情筋の動きは、
響きを豊かにし、聴衆にエネルギーを伝えます。
無表情で歌わないことが、
感情を乗せる第一歩です。
これらのポイントを通じて、内面の葛藤と未来への強い願いを表現しきったとき、
「春に」は聴く人の心に深く刻み込まれる感動的な合唱を、ぜひ中学校最後の、そして最上級生としての姿を
すべての人たちに届け魅了してくださいね。
合唱曲「春に」の誕生には、詩人・谷川俊太郎と作曲家・木下牧子という日本を代表する二人の才能の結びつきが深く関わっています。
「春に」の制作に関する秘話・背景
1. 詩の成り立ちと合唱曲化原詩は国語の教科書にも:
「春に」の歌詞は、詩人谷川俊太郎(たにかわ しゅんたろう)氏の詩集『どきん』に収録されていた詩が原典です。
この詩は、中学生の国語の教科書にも採用されていた時期があり、多くの生徒にとって身近な存在でした。
木下牧子との出会い:
この詩に曲をつけたのが、現代日本を代表する合唱作曲家である木下牧子(きのした まきこ)氏です。
木下氏は、谷川俊太郎氏の詩が持つ思春期の繊細な感情や葛藤を見事に捉え、合唱曲として命を吹き込みました。
2. 曲集『地平線のかなたへ』の一部として:
「春に」は、木下牧子氏が作曲した合唱曲集『地平線のかなたへ』に収録されている5曲のうちの1曲です。
曲集のテーマ:
この曲集は、全体として中学生・高校生に希望を与えることを意図した明るくも内省的な曲で構成されています。
「春に」はその中でも、卒業や新しい生活を前にした、心の揺れやエネルギーを象徴する作品として位置づけられています。
3. 作品に込められた意図葛藤の表現:
この詩の魅力は、「地平線のかなたへと歩きつづけたい/そのくせこの草の上でじっとしていたい」という、
二律背反(相反する感情)の願望が描かれている点にあります。
木下牧子氏の作曲は、この心の複雑な動きを、静けさ($pp$)と力強さ($ff$)の極端な対比、
そして繊細な和声の変化によって見事に音楽化しています。
「声にならない叫び」:クライマックスの「声にならない さけびとなって こみあげる」というフレーズは、
思春期の若者が心の中で抱える、言葉にしきれないほどの大きな感情の衝動を表現しており、
この劇的な高揚感が合唱曲としての大きな感動を生んでいます。
このように「春に」は、文学作品として高い評価を受けていた谷川俊太郎の詩に、
木下牧子の優れた作曲技術が加わることで、日本の合唱界における不朽の名作として誕生しました。
その詩が描く「揺れ動く心」が、特に中高生の感情と深く共鳴し、定番曲となった要因と言えるでしょう。
谷川俊太郎(たにかわ しゅんたろう)はとても偉大な詩人です!
戦後の日本を代表する国民的詩人であり、詩作のみならず、絵本、翻訳、作詞、脚本など、多岐にわたる分野で活躍し、
日本の文化に多大な影響を与えました。
1. 幼少期と詩人としてのデビュー
1931年東京に生まれる。父は哲学者の谷川徹三。知的刺激に満ちた家庭環境で育つ。
青年期旧制都立豊多摩中学校(現・都立豊多摩高等学校)を卒業。高校時代から詩作を始める。
1952年第一詩集『二十億光年の孤独』を刊行(20歳)。※7年生の時に、
増川先生と読み味わったこと覚えていますか!?
宇宙的なスケールと繊細な感性を融合させた詩風で、戦後詩の新星として脚光を浴びる。
2. 創作活動の展開と多面性
谷川俊太郎の活動は、詩という枠を超え、多くのジャンルで大衆に愛されました。
詩作と代表作一貫して現代詩の最前線で活躍し、『六十二のソネット』『愛について』『世間知ラズ』『日々の地図』など、
数多くの詩集を発表。詩「生きる」「朝のリレー」「春に」(合唱曲)など、学校の教科書に収録された作品も多数あり、
幅広い世代に親しまれている。
翻訳家・絵本作家としての活動海外の児童文学の翻訳家としても大きな功績を残し、
特にレオ・レオニ作の『スイミー』や『フレデリック』、チャールズ・M・シュルツの漫画『ピーナッツ』シリーズ、
そして『マザー・グースのうた』の翻訳は非常に有名で、日本の文化に深く根付いている。
絵本作家としても、『もこ もこもこ』『これは のみの ぴこ』など、独自の言葉遊びやリズミカルな文体で、
子どもたちに愛される作品を多く生み出した。
作詞・脚本家としての活動テレビアニメ
『鉄腕アトム』の主題歌「空を越えて ラララ 星の彼方」の作詞を手掛け、国民的なヒットとなる。
映画監督の市川崑作品などの脚本も手がけ、映画界でもその才能を発揮した。
3. 後期の活動と影響
晩年まで精力的に創作活動を続け、日本語の持つ可能性や、日常の中の普遍的なテーマを追求し続けました。
読売文学賞、萩原朔太郎賞、野間児童文芸賞、日本翻訳文化賞など、多くの文学賞を受賞。
2010年代以降現代詩の枠を超えたコラボレーションや、朗読会を通じて、多くの人々に「言葉」の魅力を伝え続けた。
2024年老衰のため、92歳で死去。
その死は国内外で大きく報じられ、日本を代表する詩人としての生涯に幕を閉じました。※中台中でも掲載された新聞を掲示しましたね。
谷川俊太郎の作品は、「宇宙的な孤独」から「日常のささやかな喜び」まで、
人間の生と死、存在の根源を優しく、
時には鋭く問いかけるものであり、その柔らかな感性と革新的な表現は、
世代を超えて読み継がれています。
『春に』 谷川 俊太郎
この気もちはなんだろう この気もちはなんだろう
目に見えないエネルギーの流れが 大地から あしのうらを伝わって
ぼくの腹へ 胸へ そうして のどへ 声にならない さけびとなって こみあげる
この気もちはなんだろう この気もちはなんだろう
喜び 悲しみ いらだち 安らぎ 憧れ 怒り
この気もちはなんだろう この気もちはなんだろう
枝の先に ふくらんだ つぼみが 固い殻を つつんでるように ぼくのこころを つつんでいる
いま 手をひたしたい ひたしたい あの青い空に 手をひたしたい
いま 会ってみたい 話してみたい あのひとに ことばのない ことばで
いま 地平線のかなたへと 歩きつづけたい そのくせ この草の上で じっとしていたい
声にならない さけびとなって こみあげる
この気もちはなんだろう この気もちはなんだろう
詩を合唱で表現する、朗読する!?言葉の力を存分に活かして、
全身全霊で訴えかけるように、さすが!9年生という感情にまみれた合唱を期待しています。
今の中学3年生が抱える心の葛藤を、ぜひ9年E組が一丸となって表現してほしいと思います。
とても楽しみにしています。
どの世代の人間が聞いても知らない人はいない詩です。すべての人の心に必ず、
一生懸命に訴えかける合唱が届くことでしょう。
これで、全クラスの曲の紹介が終わりました。
いよいよ明後日は、本番です。まだまだ、クラスで楽曲のレベルを高めることができる時間は残されています。
本番一発勝負です!何が起きても悔いがない最高の準備で迎えて、それぞれの心にいつまでも残る
最高の合唱コンクールにしましょう。それができるのは、参加する生徒ひとりひとりの真剣な表情と、
心を込めて奏でるハーモニーです。それに、すべての人たちは、心揺さぶられ感動の渦が生まれ、
とても温かく、いつまでも心に残り響き続ける一日を刻むことになるでしょう。
中台中生の「一生懸命は、かっこいい」
文化発表会バージョンのみせどころですよ!
最後の最後まで、妥協せず、全力投球でやりきりましょう!期待しています。
記事 風見 一統