『虹』~9D~
- 公開日
- 2025/10/21
- 更新日
- 2025/10/21
日々の様子
9年D組『虹』
作詞・作曲: 森山 直太朗、御徒町 凧(おかちまち かこ)
合唱編曲: 信長 貴富(のぶなが とみと)
発表年: 2006年(平成18年)
制作背景: 第73回NHK全国学校音楽コンクール(Nコン)中学校の部の課題曲として書き下ろされました。
編成: Nコン課題曲として、混声三部版と女声三部版が作られ、その後、男声三部版、混声四部版なども出版されています。
2. 歌詞とテーマ
詩的な表現が多く、人生における出会いと別れ、そしてその両面性を深く歌っています。
中心となるフレーズ: 「僕らの出会いを 誰かが別れと呼んだ」「僕らの別れを 誰かが出会いと呼んだ」
というフレーズが象徴的で、物事には相反する二つの側面があること、そして時が流れていく中で、
別れもやがて出会いへと繋がるというメッセージを伝えています。
タイトルの意味: 歌詞全体を通して「虹」という単語は一度しか出てきませんが、
「明日へと続く不安げな空に 色鮮やかな虹が架かっている」という最後のフレーズに、
不安な中でも希望を見出そうとする強い意志が込められています。
制作のきっかけ: 森山直太朗さんは、共作者である御徒町凧さんと共通の友人を亡くした経験が、この曲を書く一つのきっかけになったと語っています。
3. 合唱曲としての特徴と難易度
編曲を担当した信長貴富さんの手腕により、原曲の叙情性を保ちつつ、合唱としての聴き応えのある立体的な作品となっています。
構成の複雑さ: 主旋律が各パート間で頻繁に入れ替わったり、細かい掛け合いや、
主旋律の裏で異なるリズムの副旋律が入ったりと、パート間の連携が非常に重要です。
表現の多様性: 繊細で柔らかな発声が求められるソロ(ソリ)の部分や、
感情を大きく開放するサビの部分など、ダイナミクス(強弱)の幅が広く、豊かな表現力が求められます。
ピアノ伴奏: ピアノ伴奏も非常に凝っており、曲の情景や感情を豊かに描き出す重要な役割を担っています。
Nコン課題曲として制作された経緯もあり、技術的にも表現的にも難易度は高めですが、
その分、完成度の高い演奏は大きな感動を生み出します。
Nコン終了後も、合唱コンクールや卒業式で歌い継がれる、人気のある合唱曲の一つです。
1. 楽曲の構造とパート間の連携
この曲はパート間の「受け渡し」や「掛け合い」が多いのが最大の特徴です。
パートの役割交代を意識する: メロディー(主旋律)がソプラノ、アルト、男声の間で次々に移り変わります。
主役になったパートは、メロディーをしっかりと響かせ、感情を込めて歌います。
脇に回ったパートは、伴奏やハーモニーとして主旋律を支える役割に徹し、声量を抑えつつ、
音が埋もれないように美しい響きを保ちます。
「タテの線」を揃える: 複雑なリズムやフレーズの掛け合いが多いです。
特にパートが合流する箇所や、メロディーの出入りのタイミング(タテの線)を正確に揃えることが、音楽の一体感を高めます。
ピアノとの一体感: ピアノ伴奏も非常にドラマチックで重要です。
合唱全体でピアノの音やテンポをよく聴き、ピアノと合唱が一体となって曲の情景を作り出している意識を持つことが大切です。
2. 発声とダイナミクス(強弱)
信長貴富さんの編曲は、ダイナミクスの幅が広く、緻密な声のコントロールが求められます。
繊細な弱音($p$、 $pp$)の表現: AメロやCメロなど、情感を込めて歌う静かな部分では、声を強くするのではなく、
「遠い空を探した」「風になった日々の空白を」といった言葉が持つ切なさや寂しさを、透明感のある声で表現します。
サビの響きの「広がり」: サビの「僕らの出会いを誰かが別れと呼んだ」の部分は、音量を大きく(フォルテ)しますが、
ただ強く叫ぶのではなく、「音が広がっていく」「空に虹が架かる」ような明るく豊かな響きを目指します。
言葉の子音・母音: 詩的な歌詞を深く伝えるために、言葉の一つひとつを大切にします。特に、母音を縦に開いて発音することで、
合唱に必要な響きを確保しましょう。
3. 感情とメッセージの表現この曲の歌詞は哲学的な深さが詰まっているので、よく読み味わいましょう。
「両面性」の理解: 「出会いと別れ」「喜びと悲しみ」といった、物事の二面性を歌っています。
それぞれのフレーズを歌うとき、その言葉が持つ感情(出会いの喜び、別れの寂しさなど)を瞬時に切り替え、
声のトーンで表現することが重要です。
「時間」の流れを表現する: 曲全体を通して、「時が流れていった」「遠まわり」といった時間の経過を感じさせる歌詞が散りばめられています。
過去を振り返る切なさ、そして未来へと続く希望を、テンポの揺らぎ(ア・タッカやア・テンポ)やフレージングで表現します。
クライマックスの「虹」: 最後の「色鮮やかな虹が架かっている」は、不安な状況の中でも見つけた希望の光です。
最後の和音が消えるまで、その希望と感動を歌声に乗せましょう。
広がる空に 僕は今 思い馳(は)せ 肌の温(ぬく)もりと
汚れたスニーカー ただ雲は流れ きらめく日々に 君はまた 指を立て
波のさざめきと うらぶれた言葉 遠い空を探した
喜びと悲しみの間に 束(つか)の間という時があり
色のない世界 不確かな物を 壊れないように隠し持ってる
(サビ) 僕らの出会いを 誰かが別れと呼んだ 雨上がりの坂道 僕らの別れを 誰かが出会いと呼んだ
時は過ぎ いつか 知らない街で 君のことを想っている
風になった日々の空白を 空々(そらぞら)しい歌にのせて
未来を目指した旅人は笑う アスファルトに芽吹く ヒナゲシのように
(サビ) 僕らの喜びを 誰かが悲しみと呼んだ 風に揺れるブランコ 僕らの悲しみを 誰かが出会いと呼んだ
明日(あした)へと続く 不安気な空に 色鮮やかな虹が架かっている
(コーダ) 僕らの出会いを 誰かが別れと呼んでも 徒(いたずら)に時は流れていった 君と僕に光を残して
知っていますか!???
秘話:テーマは「出会いと別れの二面性」
「虹」の歌詞は、一見すると美しい情景を描いているように見えますが、その根底には深いメッセージが込められています。
「自殺問題」と「虹」という概念: 共作者である御徒町凧さんは、この曲を作るきっかけとなった演劇のワークショップで、
『虹』というタイトルの戯曲を書いています。その戯曲のテーマは「自殺問題」でした。
劇中の設定として「人が死ぬと、その代わりに虹がかかる」という言い伝えがあり、
「喜びと悲しみのバランスを取って世界は存在している」という考え方が根底にありました。
「出会い」と「別れ」の葛藤: 御徒町さんは、その演劇の経験や、共通の友人を亡くした経験などを通して、
「出会い」と「別れ」という人生の相反する事柄について深く思い悩んでいたといいます。
Nコン課題曲としての昇華: そんな時期に、NHK全国学校音楽コンクール(Nコン)中学校の部の課題曲制作の依頼が来ます。
当時のNコンのテーマは「別れ」など、人生の区切りに関するものでした。
森山直太朗さんと御徒町凧さんは、その依頼を受け、自分たちの中の「出会い」と「別れ」に関する葛藤や思いを、
「僕らの出会いを 誰かが別れと呼んだ」「僕らの別れを 誰かが出会いと呼んだ」という象徴的なフレーズに昇華させました。
希望としての「虹」: 歌詞の最後の「明日へと続く 不安気な空に 色鮮やかな虹が架かっている」というフレーズは、
人生の悲しみや別れ(=不安気な空)を経験した後にこそ見えてくる、希望や再生の光を象徴しています。
生徒たちが卒業や新しい生活を迎える不安な時期に、この曲は「人生は二面性を持っており、別れの先には必ず出会いがある」
という力強いメッセージを投げかけました。
このように、「虹」は単なる美しい卒業ソングではなく、人生の苦悩と希望、そして世界が持つ複雑な
バランスを歌い上げた、深い背景を持つ課題曲として生まれました。
この曲は、9年生の代名詞と言える名曲であり、やはり『圧巻の合唱』を求めて欲しい曲です。
妥協せずに、最後の最後までクラスで磨き上げてほしいと思います。
唯一のソロパートもあり、醍醐味が豊富です。
この曲に魅了され、感化され、合唱コンクールをひとつの大きな目標にやってきたひとたちは数知れず。
ぜひ、今年の『虹』も最高の『架け橋』へと紡がれる、曲として、全生徒の心の中にいつまでも
響く合唱になってほしいと期待しています。
明日は、いよいよ最後E組の紹介です。乞うご期待!
記事 風見 一統