2学期が始まりました。夏休み中は、私が終業式で話した『3つの落とすな』を、しっかり守れたでしょうか。何より「命」を落とした人がいなかったことは、心から嬉しく思います。今日は、その「命」に関連する話をさせてください。
今年度の2学期の始業式は、暦の関係で今日9月2日です。その9月2日と明日の3日は、教師としての私にとって忘れられない日であり、忘れてはいけない日でもあります。
今から30年近く前になりますが、私はある下町の中学校で3年生の担任をしていました。そこで受け持っていた女子生徒を、私は9月3日にオートバイ事故で亡くしているのです。ここでは、その生徒の名前を「Aさん」としておきます。
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Aさんは、いわゆる非行少女でした。校則を破ったり、家出を繰り返したり、窃盗や今で言う「薬物乱用」をしたりして、お父さんやお母さんを困らせていました。
その年の2学期の始業式は、例年どおり9月1日でした。そして、その始業式に、Aさんは髪の毛を金色に染めて登校してきました。当然、私は事情を聞こうとしました。しかし、Aさんは私の指示に従わず、同じように髪を染めてきた仲間と一緒に、勝手に下校してしまったのです。
私は放課後に家庭訪問しましたが、Aさんはその仲間と出かけてしまい、夜まで待っても帰宅しませんでした。やむを得ず私は、ご両親にAさんが帰ってきたら連絡をくれるように依頼して、Aさんの家を後にしたのです。
ところが、翌日お母さんから入った連絡は、Aさんがオートバイの事故で重傷を負い、病院に救急搬送されたというものでした。Aさんは、盗難バイクにヘルメットもつけずに、仲間と3人乗りして乗用車に衝突、空中に10m以上放り出されたのだそうです。
頭部を強く道路に打ち付けたAさんは集中治療室に搬送されましたが、私が駆けつけた時にはすでに脳死状態と言われていました。それでもご両親から「先生も、こっちに呼び戻してください」と頼まれ、私は何回も大きな声でその名を呼びました。
しかし、Aさんの意識は戻ることなく、翌9月3日正式に死亡の判定がされました。その時にお母さんが、流れる涙をぬぐおうともせず、Aさんの腕をさすりながら発した言葉を、私は今も忘れることができません。
「たくさんたくさん親不孝して、先生にもたくさん迷惑をかけた子だったけど、やっぱり親より先に死んじゃダメだよ。ねえ、先生。それだけはやっちゃダメだって、叱ってください」
私はその後、Aさんが家ではよく私の話をしていたことや「武田は先生の中で一番ムカつくけど、一番信用できる」と話していたことをご両親から知らされました。
だから、一番信用されていた教師であるにもかかわらず命を救えなかった後悔の念が、今も心のトゲとして刺さっているのです。
以来私は、Aさんのような事故死は言うまでもなく、どんな事情であれ若者が命を落としたというニュースに接するたび、Aさんのお母さんの言葉を思い出します。
「やっぱり親より先に死んじゃダメだよ」
どうか皆さん、改めて自分の命を大切にしてください。事故だけではありません。もし「生きているのが辛い」などと思うことがあったら、以前話したように私たち大人に相談してください。SOSの出し方は直接でもChromebookのフォームアンケートでもかまいません。私たちは、必ず皆さんに寄り添うことを約束します。
今年は始業式が9月2日で、皆さんと同じ中学生だったAさんが事故を起こした日、明日がそのAさんの命日であるため、かつての教え子の話をしました。もし皆さんが、Aさんのお母さんの言葉を胸に刻んでくれたなら、悲しい思い出を話した甲斐があります。