国民的アニメ『サザエさん』では、例年8月末の放映で、「夏休みの宿題が終わらないカツオくんの話」が出てきます。波平さんやマスオさん、時にはノリスケさんまで動員してカツオくんの手助けをする磯野家の様子は、ドタバタ劇の中にも微笑ましさを感じさせます。
ただし、私に言わせるとそれは、古き良き「昭和の微笑ましさ」です。令和の現在では、宿題を終えていないことが、不登校のきっかけにもなりかねません。最悪の場合そういう生徒が、自暴自棄な行動に出てしまうことすらあります。また、磯野家のような人海戦術ではなく、ネット上の隙間ビジネス「宿題代行業」やAIに頼る生徒(保護者)も出てきました。
他方、昭和と比べて現在は、塾の夏期講習等に通う生徒も増えています。そういう生徒の多くは、自分の課題克服と塾の勉強とで手一杯です。事実、過去にはそこに学校の宿題と部活動とが加わり、自分の時間が全く取れなかったと嘆く生徒もいました。
そう考えると夏休みの宿題は、学習面に課題のある生徒にとっては勉強嫌いを助長するネガティブ要素、自学自習の習慣が付いている生徒にとっては「余計なお世話」という負の側面もあるのです。
カツオくんの通う「かもめ第三小学校」もそうかもしれませんが、昭和の学校は、たくさんの宿題を出すことが教育サービスであると考えてきました。それが間違っていたというのではなく、そういう時代だったのです。保護者から寄せられる「うちの子は宿題がないと勉強しないから、たくさん出してください」というリクエストに学校が応える時代だったのです。
かくいう本校でも私が着任した当初は、夏休み終盤の部活動で、宿題未終了の部員を練習に参加させず、別室で宿題に取り組ませる部がありました。夏休み後半の学習教室で【宿題を終わらせよう】をスローガンに掲げていた学年もありました。宿題という家庭で取り組むべき学習について、学校で先生が面倒みるという「ブラックジョーク」のような話です。
そして、残念ながら、先に述べたとおり2学期当初、宿題が終わっていないことをきっかけに(少なくとも本人はそれを理由に)、学校に足が向かなくなってしまった生徒もいました。
以上のようなことを踏まえ、本校では一部、区で統一されている読書感想文のようなものを除き、長期休業中の宿題は出しておりません。ただし、学力に応じた家庭学習のアドバイスは与えております。中には「1学期の通知表の評定が、5と4だった人はこれ、3だった人はこれ、2と1だった人はこれ」という目安を示している教科もあります。
本校では、たった1つの校則『Be Gentleman(紳士であれ)』に象徴されるように、生徒が自ら律する姿勢、つまり「自律の精神」を養いたいと考えております。また、これからの時代に求められる「主体的に学ぶ態度」も身に付けさせたいと思っています。保護者の皆様も「私たちの中学生時代は…」といった経験則で宿題を捉えず、長い目で見たお子さんの成長を促してくださいますよう、お願い申し上げます。
では、結びに、明日の終業式で私は「夏休み中に落としてはいけない3つのこと」を生徒たちに話す予定です。明日配付の校長通信に全文を載せておきますので、保護者の皆様にもそれをご覧いただき、お子さんの夏休みが安全で有意義なものとなりますことを祈念して、私の挨拶とさせていただきます。
ご静聴有り難うございました。