「答辞」
数々の先輩方に抱いた憧れ、超えていこうとしてきたその背中に、私たちはなれたのでしょうか。先輩を超えるという伝統を作り上げてきた私たち。そしてこの紺色のブレザーに赤色のネクタイという長年続いた制服に、袖を通すのが最後になる私たち。今日、私たち106名は、志村第五中学校を旅立ちます。
私たちが初めて出会った日はまだコロナの余韻が残っているときでした。マスクをし、顔が見えないなかで入学式を迎えました。不安を抱えながら始まった中学校生活でしたが、対面式でその気持ちが一瞬にして変わっていきました。先輩の温かい歌声と、堂々とした態度を間近で見て圧倒されたことを今でも覚えています。
10月には初めての宿泊行事となる富士見高原移動教室。みんなで初めての宿泊行事ということで、とてもはしゃいでいました。レクでは先生や生徒関係なくドッジボールやじゃんけん列車を行いました。みんなマスクをしていても分かるぐらいの笑顔で、このまま時間が止まってしまえ、と思ってしまうほど温かい雰囲気でした。特に登山では、最初は乗り気ではなかった人も多くいましたが、いざ登るとその思いを忘れてしまうぐらい、都会にはない自然に心踊らされました。友情の深まりと、達成感に満ち溢れた二泊三日となりました。
8年生になると、後輩ができ心構えも変わっていきました。それがより一層深まったのは職場体験でした。実際に働くということを体験し、様々なことを感じました。挨拶をすることの大切さ、大変だからこそ、そこにやりがいを感じたこと、何のために働くのか、誰のために働くのか、と将来のことについて考えさせられると同時に、私たちのために働いてくれているお母さんやお父さん、先生方に感謝する機会にもなりました。
8年生最後の行事となったのは9年生を送る会でした。私たちが一生懸命練習した「HEIWAの鐘」を超える9年生の合唱に圧倒され、最高学年への不安を抱きつつも、大きな目標を立てるきっかけとなりました。
中学校生活最後の運動会では「勝利を掴め Break the Limit」をスローガンとして掲げ、 「過去の自分を超える」、「過去の先輩を超える」、「みんなと超える」ことを目標に9年生一人ひとりが運動会の成功と勝利に向けて努力していました。特に団体種目の綱引きに対しては誰もが全力を注ぎ、学年練習でも本番のような応援の声が飛び交っていました。また、クラスでの作戦会議でも作戦の立案やメンバーの配置、挙句の果てには綱の握り方一つについても何度も話し合い、私も綱への体重のかけ方について実践を交えつつ仲間と研究をしていました。そして、本番ではやはり熱戦が繰り広げられ、大きな盛り上がりを見せました。そのときの綱を引く横から響く応援の声や、綱を強く引きすぎて真っ赤になった手の感覚は今でも覚えています。
そして、10月の文化発表会は、先輩としての誇りが試される行事だったと思います。「先輩を超える」ことが目標の私たちにとって、昨年度の先輩方の合唱は大きな「壁」となる存在でした。練習が始まると、誰もが去年とは比べ物にならない難易度の合唱に打ちのめされました。練習の中でなんとか形にすることはできたものの、完成度は昨年度の9年生よりも大きく劣っていました。努力が思うような形にならなかったことが言葉にならないほど悔しかったです。そんな私たちが自分たちだからこそ歌える歌を創り上げるために立ち上がったのは、スローガンの「百歌繚乱」の存在があったからでした。咲き乱れる花のように、私たちでしか出せない歌声を作り上げようという思いの下練習を続け、当日には各クラス、そして学年全体が伝えるべき思いを胸に私たちだけの歌声を届けることができました。
9年生になり受験期に入ると、自分のことで精一杯になって周りが見えなくなることが多くなりました。孤独や不安に押しつぶされて、自信をなくしてしまうこともありました。そんななかでも支えてくれたのはお父さんやお母さんでした。「あなたならできる」と何度も声をかけてくれたこと、ときには私たちのことを心配して怒ってくれたこと、何度も何度も声をかけ続け、私達のことを最後まで信じてくれました。前を向いて進み続けられたのも、その存在があったからです。今ここに立っていられるのも、お父さんやお母さんのおかげです。大切につけてくれた自分の名前が呼ばれたこと、それに元気よく返事をすることができたことがとても幸せです。
私たちが、学校で何不自由なく生活できたのは、たくさんの支えがあったからです。校舎を隅々まできれいにしてくださっている用務主事さん。私たちの色々な手続きをしてくださった事務主事さん。私たちの健康を考え、四季に合わせた色とりどりで、元気をもらえる給食を考えてくださった栄養士さん。温かい笑顔で私たちのことをいつも見守ってくださった地域の方々。みなさんの優しさとその姿が、当たり前が当たり前にあることの感動と、それを継続し、努力し続けることの大切さを教えてくださいました。
先生方にも感謝で胸がいっぱいです。私達のことを常に考え、いつでも相談しやすい雰囲気をつくってくださいました。この中学校3年間で先生方のいろいろな顔を見ることができました。何を言っても笑ってくれるところ、合唱を聞いて思わず泣いてしまうところ、運動会などの勝負事にとても情熱的なところ、豆知識をたくさんもっているところ、行事や授業を通してたくさん知ることができました。私たちの3年間の成長を支えてくださったこと、とても感謝しています。ありがとうございました。
私たちの中学校生活の中で志村第五中学校の制服は新しいデザインに変わり、この紺色の制服を着るのは私たちで最後です。そして校則なども時代の流れに合わせて少しずつ変化していきました。ですが、その中でも変わらない志村第五中学校の伝統があると思います。落ち着いた校風や「先輩を超えること」など、7年生、8年生の皆さんはこの伝統を受け継いでいってください。
そしてもう一つ私たちが望むのは、皆さんが卒業するときも今の私たちのような思いを抱いていてほしいということです。今から卒業するまで残りの一年、二年という時間を、この学校を離れるときに決して後悔しないように使ってください。やりたいことを全部やって、たくさん努力して、そして、自分の夢を見つけてください。でも、卒業するまでにもっとこんなことがしたかったと後悔するくらい、やりたいことをたくさん見つけてください。
私たち106名は、これから別々の道へと進んでいくこととなります。すぐ近くで笑い合っていた友達との距離がほんの僅かに、でも確実に遠くなります。壁にぶつかったとき、自分と誰かとの間に隔たりを感じたとき、隣にいたはずの存在がいないことを心細く感じることがあるかもしれません。でも私たちは今まで一人だけで綱を引いてきたわけでも、一人だけで壁を乗り越えてきたわけでもありません。自分が自分を乗り越えるときには、いつも周りからの支えがあったのだと思います。私たちは卒業してからも、ずっと仲間であることに変わりありません。これからも仲間と共に自分を超え、自分の理想となる存在を超えて行くことを誓います。