さて、同じように「法律で禁じる」と聞いて少し驚いたニュースが、海外から飛び込んできました。オーストラリア政府が、16歳未満のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の利用を禁じる法案を可決したというニュースでした。それにより、近いうちにオーストラリアでは、16歳未満の若者がインスタグラムやX(旧ツイッター)、ティックトック等のSNSを利用できなくなる見通しです。
このように、若者のSNSの利用制限が欧米各国で検討されるようになっています。その目的は、SNSが若者の心身に及ぼす悪影響や、トラブルの予防にあります。
一方、そうした「法律による禁止」に対して「若者の自由を奪うのではなく、若者のネットリテラシー(インターネットを正しく使いこなす能力)を高める教育のほうが大事」といった反対意見もあります。確かに、そのとおりです。ただ現実問題として、若者のネットリテラシーが、自分に与える悪影響やトラブルの予防に追いついていないのは事実です。その典型的な例が、いわゆる「バイトテロ」です。
アルバイト従業員が、商品等にいたずらしている動画をSNSに投稿し、炎上する事件のことです。ウケねらいの軽い気持ちでやった若者が、勤務先に多大な損失を与えたり、他者を傷つけたり、逆に多額の賠償金を請求されたり、社会的制裁を受けたりしています。
他にも、片時もスマホを手放せなくなるSNS依存症、SNSを介したいじめやなりすまし、SNSへの軽はずみな画像や発言の投稿、SNSで他のユーザーと知り合ったことによるトラブルや犯罪被害なども、ネットリテラシーが未熟であるがゆえに生じた問題と言えます。
そう考えると、オーストラリアで若者のSNSを禁じる理由は、最初に述べた「二十歳未満の飲酒を禁じる理由」と重ねて、次のように言い換えられそうです。
「SNSは、十分に発達していない脳に大きな影響を与えるため理性を低下させ、さまざまなトラブルなど取り返しのつかない事態につながる危険性があるから。
また、若いころからのSNS習慣は、スマホ依存症になる可能性を高めるから」
改めて言うと、理性とは「善悪を判断する力」です。したがって、このまま理性の低下した若者、つまり、良いことと悪いことの区別をつけられない若者が増えると、いずれ日本でもSNSが法律で禁じられるかもしれません。
飲酒、喫煙、ギャンブル、労働(アルバイト)、深夜の外出など、年齢によって制限される行為は多くあります。ただそれらは全て、若者を守るための措置なので仕方ありません。一方で、それまで自由だったことが少しずつ禁じられていく、つまり、不自由が増えていくと、生活は息苦しくなります。
もしそれが嫌なのであれば、そうならないためのヒントとして、小説『戦争と平和』で知られる19世紀ロシアの文豪トルストイの次の言葉を紹介しておきます。
【人間を自由にできるのは、人間の理性だけである。人間の生活は、理性を失えば失うほど、ますます不自由になる】
自由か、不自由か、決めるのはあなたの理性なのです。