今年度最初の全校朝礼です。あらかじめ説明しておくと、コロナ禍になって以来、本校では朝礼をこうしてリモートで行っています。そして、皆さんには講話の内容を掲載した校長通信も、手元に置いてもらっています。
理由は、本校で推進するRS(リーディング・スキル=読み解く力)の育成のためです。私は講話の原稿作成にあたり、意識的に少し難しい語句や言い回しを用いたり、指示語の内容を考えさせたりするようにしています。
プロの文筆家ではないので不十分ですが、皆さんもそんな視点で通信1面を読み返したり、少し難しいと思った語句の意味や用法を調べたりしてみてください。
では、改めて目は校長通信を追いながら、耳と心は私に向けてください。
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先週、最新101巻が発売された『名探偵コナン』という人気漫画(アニメ)があります。20年以上前の話ですが、当時小中学生だった私の2人の娘も、夢中になって見ていました。
そのため私も覚えてしまったのですが、名推理で謎を解くコナン君には【真実は、いつも一つ】という決めぜりふがありました。
実はそれを聞く度に私は、毎回「果たして、そうだろうか?」と首をひねっていたのです。もちろん小中学生の娘にそう問いかけても、「うざい」という若者言葉を返されるだけなので、その疑問はのみ込んでいましたが…。
あれから約20年、私は最近、そんな当時のストレスを解消してくれる漫画に出会いました。今年TVドラマ化もされた『ミステリと言う勿れ』という漫画です。『名探偵コナン』と同じで謎解きがメインの漫画ですが、主人公の探偵役・久能 整(くのう ととのう)が、こんな台詞を言っていたのです。
【真実は、人の数だけあるんですよ。でも、事実は一つです】
私がこの台詞に全くもって共感するのは、【事実】と【真実】の違いを次のように考えるからです。
【事実】実際に起きた嘘偽りのない出来事
【真実】その出来事に対する、嘘偽りのない解釈・考え方
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さて、現在東欧のウクライナで、子供たちにとても悲しい出来事が起きています。その様子を伝える新聞やTVニュースは、毎日のように目を背けたくなる言葉や映像であふれています。
そして、政治家や評論家、学者たちが、それぞれの立場で、それぞれに問題点や解決策を論じています。おそらくその一つ一つに、論拠となる何らかの【真実】があるのでしょう。
ただし、誰が何を主張しようと、罪なき多くの子供が傷つき、命を落としていることに変わりありません。それは「実際に起きた(起きている)嘘偽りのない出来事」です。様々な【真実】が交錯する中で、私はそれこそが、戦争における【事実】だと思います。
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一方、戦争の勝ち負けは、何をもって「勝ち」と考えるかで、解釈が変わります。現在、戦争の当事国であるウクライナとロシアの間で停戦協議が進展しないのも、その証左と言えるでしょう。そして、そうしている間にも、罪なき子供の犠牲という【事実】だけは、冷酷に積み重ねられています。
そう考えた時、私は戦争にはもう一つの【事実】があると気づきました。たとえ当事国がお互いの【真実】に基づく「勝ち」を主張したとしても、未来を担うはずだった子供の命は返ってきません。
したがって、未来に目を向けた時、戦争に「勝ち」などないのです。あるのは「負け」だけ。しかも、その「負け」は戦争の当事国のみならず、戦争を止められなかった国際社会、すなわち私たち人類の「負け」でもあるのです。
いつか、かの地で砲弾の音がやんだ時、誰がどう「勝ち」を主張するのか、私にはわかりません。ただし、戦争が始まった時点で、当事国も含め私たち人類はすでに「負け」ていたということ。それもまた戦争における紛れもない【事実】だと、私は考えています。