今から10年前の2015年11月17日の東京新聞に【組体操をなくせ~「中止」決断した学校~称賛より安全を優先】と題した記事が掲載されました。10年前に私が勤務していたA中学校の取り組みを記事にしたものです。
当時はまだ「組体操」全盛期で、記事によると前年度の小中高校の組体操事故は、東京都で728件も発生していたそうです。記事を書いた記者は、その現状を憂えて取材を重ねているうちに、2年前の2013年、A中学校がすでに「組体操」を廃止していたという情報を得て、私に取材を申し込んだのでした。以下、記事の一部を抜粋します。
★ ★ ★ ★ ★
武田校長が赴任した当時は、運動会で男女ともに組体操を披露していた。男子は肩を組んだ上に人がたつ四段タワーを実施。拍手喝采を浴びる伝統行事で、保護者アンケートには「感動した」との称賛の声が並んだという。(中 略)
練習に毎回立ち会っていた武田校長は、生徒がタワーから落下するのを何度も目撃。大事には至らなかったが最上段の生徒は高さ6メートル弱の位置におり、「死亡事故さえ起きかねない」と感じ、運動会後に当時の体育教諭と話し合った。(中 略)
武田校長は、「伝統的に続く組体操は、やめることの方が難しい。だが批判をはねのけてでも子どもの安全を優先するのが校長の役割」と強調。「校長は毎回練習に立ち会って実施するかどうかを決断するべき。それでも巨大な組体操に危険を感じなければ、その感覚が怖い」と話す。
★ ★ ★ ★ ★
A中学校時代の私は、「組体操」をやめるという案件で2回も保護者会を開きました。そして、その都度「大きな事故が起きたわけでもないのに、なぜ伝統を途切れさせるのか」といった批判を浴びました。
他のB中学校に至っては、保護者による「組体操存続の嘆願書(署名)」まで提出されました。幸い、理解ある保護者の多い板三中でそんなことはありませんでしたが、「組体操」廃止後の運動会アンケートでは「残念だった」「伝統を復活させてほしい」という声もありました。
A中学校にしろB中学校にしろ、熱心に「組体操」を指導されていた先生が、苦痛に耐えきれず失敗した生徒にかけていた発破が「そんなことで、見ている人が感動すると思っているのか!」でした。
その言葉を聞くたび、私は違和感を覚えていました。苦痛に耐えて何かを成し遂げようとしている人の姿が、見る者を感動させることはあります。ただし、人は誰かを感動させようとして苦痛に耐えるのではありません。私が再三耳にした先生の発破は、生徒の苦痛や我慢を手段に、見る者を感動させることを目的化した言葉です。
板三中で「組体操」が「組ダンス」に替わって8回目の運動会を迎えようとしています。今や、苦痛や危険など伴わないどころか、皆さんが安全に楽しく踊るダンスを見て、多くの保護者の方が「感動した」と言ってくださいます。
だからといって皆さんは、誰かを感動させようとして踊っているわけではないでしょう。純粋に自分が楽しみ、楽しむために一生懸命取り組み、一生懸命取り組んだことが最高のパフォーマンスにつながり自分自身の感動も生む…。私は、それこそが真の感動であり、新たな伝統だと思っています。