空気が澄みわたり、夜空に浮かぶ月も、一段と明るく見える季節となりました。
さて、月といえば、今年はアメリカの宇宙船・アポロ11号が月に着陸し、人類が初めて月面を歩いてから55年の節目の年でした。そこで、今日はそのアポロについてお話ししたいと思います。といっても、肝心のアポロ11号ではなく、13号についてです。
今から55年前の1969年、月面着陸に成功したアポロ11号、12号に続き、翌1970年アポロ13号が月に向かって発射されました。しかし、地球からの距離約32万km(月まで約6万km)に達したとき、宇宙船で予期せぬ爆発事故が発生します。
そして、その事故によって13号のミッションは「月面着陸」ではなく「地球への帰還」に変更されました。ただし、機体の損傷はもちろん酸素不足、燃料不足、水不足など想定外の事態が次々に発生し、新たなミッションは月面着陸以上に困難なものとなってしまうのです。
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時間の関係上結果だけ伝えますが、アポロ13号は奇跡の生還を遂げます。そのため本来のミッションをクリアできなかったにもかかわらず、3名の乗組員が誰1人欠けることなく地球に戻ってきた生還劇は、半世紀以上たった今なお Successful failure(成功した失敗)と称えられています。
そんな生還劇の詳しい経緯は、1995年に公開されヒットした『Apollo 13(アポロ・サーティーン)』という映画に描かれています。その映画を見ればわかりますが、乗組員が奇跡的に地球に戻ってこられたのは、何より彼ら自身に優れた知力・体力、そして、不屈の精神力があったからです。
ただし、これも映画を見ればわかりますが、奇跡を生み出すには、もう1つの欠かせない要因がありました。それが、地球からサポートし続けたスタッフ、つまり、ヒューストン管制センター管制官たちの存在です。
私は、映画の中でその管制官の一人が言ったあるセリフが、とても印象に残っています。
宇宙船爆発という想定外の問題の解決には、想定外の方法を用いなければなりません。前例踏襲によらない新しい発想が、前例のない解決策を生み出すこともあります。私の印象に残っているのは、それをためらうスタッフに、主任管制官が言った言葉です。
その主任管制官はジーン・クランツという実在の人物で、彼の残した教訓は、今でも『ジーン・クランツの10か条』として、NASA(アメリカ宇宙航空局)で現役の宇宙飛行士や管制官たちの教科書代わりになっているそうです。
ジーン・クランツは、想定外の方法をためらうスタッフにこう言いました。「何を想定したかは、どうでもいい。何をできるかだ」
これから皆さんが生きていく時代は、AI(人工知能)の活用により、社会のありようが大きく変革します。そして、大きな変革は、時に想定外の事態、いわゆる「不測の事態」をもたらします。
予測できなかった現実に直面したとき、既成概念にとらわれている人は思考停止に陥ります。そして、思考が停止した人は、ひたすら「できない理由」を挙げ連ね、問題を先送りしようとします。
だからこそ、変革の時代を生きる皆さんには、ジーン・クランツの言葉を覚えておいてほしいのです。
「何を想定したかは、どうでもいい。何をできるかだ」
これまで板三中も、教育目標の改定や校則の1本化、「教科書を読み解く力(リーディング・スキル)」の育成、端末を使った授業革新など、板橋区立中学校のファーストペンギン(最初に海に飛び込むペンギン)として、新しい価値を生み出してきました。そして、今また「誰1人生徒を取り残さないプロジェクト」という新たなミッションに挑んでいます。
それ対し「過去に前例がない」「うまくいく保証がない」と後ろを向いて思考停止するのではなく「新しい価値を生み出すために何ができるか」を考え、前向きに取り組んでいきましょう。