夏休みに行われた高校野球・甲子園大会で、開催前から個人的に注目していた高校があります。神奈川代表の慶応高校です。
自分とは縁もゆかりもない高校ですが、なぜ私は慶応高校に注目していたのでしょうか。それは、選手たちの自由な髪型と、それを認める校風(もしくはチームカラー)に興味があったからです。
高校野球というと、坊主頭というイメージを抱く人もいるかと思います。ひと昔前は、中学校野球でさえ「普通はそうだ」「それが当たり前だ」とされていました。
現に、私も中学校入学当初は野球部に仮入部したのですが、顧問の先生から「本入部する際には、坊主頭にしてくるように」と厳命され、それが嫌で他の部活に入った過去があります。
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それに対し慶応高校野球部では、驚くべきことにすでに戦後間もない頃には坊主頭を強制していなかったそうです。その背景には「もともとスポーツとは楽しむべきものであり、そこに髪型の強制はそぐわない」という考え方があると、以前野球部の森林監督が話されていました。
一方、現在100名近い部員がいる中で、自主的に坊主頭にしている部員もいるそうです。監督によると「髪型を強制しない」のが基本的考え方ですから、自分で坊主頭にしたいと考えているならそれも尊重しているとのことでした。
ただ「強制しない」といっても全くの自由ではなく、前髪が目にかかったりすぐ帽子が脱げてしまったりするといった、プレーに悪影響を及ぼすような髪型は禁じているそうです。
私は、そんな部の方針に、たった1つの校則『Be Gentleman(紳士であれ)』の下、自律の精神を養っている本校との共通点を見出しています。校則が1つであるということも、全くの自由を意味してはいません。
校則が1つであるからこそ、本校では『あじみこし(挨拶・時間・身だしなみ・言葉遣い・姿勢)』について、常に紳士としてのあり方を考え、自らを律するよう求めているのです。
話を戻しましょう。
今回甲子園で見事に優勝という結果を残した慶応高校ですが、強豪校ひしめく神奈川県では、必ずしも甲子園の常連というわけではありません。県予選の比較的早い段階で敗退したりすると、「髪を伸ばしてチャラチャラしているからだ」「丸刈りにして出直してこい」といったヤジを浴びせられたと、あるOBが述懐していました。
「アンコンシャスバイアス」という言葉があります。「無意識の偏見・思い込み」と訳される言葉です。
「高校野球=坊主頭」という決めつけに限らず、私たちはこのアンコンシャスバイアスにとらわれていることがあります。わかりやすい例としてよく引き合いに出されるのが、次の話です。
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ある父親が、息子と一緒にドライブに出かけ、大きな交通事故を起こしました。運転していた父親は即死でしたが、息子は一命を取り留め病院に運ばれ、有名な外科医の緊急手術を受けます。その外科医は、手術室に運ばれた患者を見た瞬間、こう声を上げたのでした。「これは、私の息子だ!」
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さて、皆さんはこの話が理解できましたか? いえ、この話に潜むアンコンシャスバイアスに気づきましたか? 種明かしは「外科医は、息子の母親だった」です。私たちは、有名な外科医というと、無意識のうちに男性だと思い込んでいるのです。
誤解のないように言っておくと、私は高校野球における坊主頭を否定しているわけではありません。ただ「普通はそうだ」「それが当たり前だ」というアンコンシャスバイアスは、自分の思考を停止させてしまうこと、のみならず他者の多様性の否定にも繋がることを、知っておいてほしいのです。
高校球児の髪型だけでなく、国籍・性別・年齢・学歴・職種・家族構成、その他血液型など、私たちが無意識に抱いている偏見や思い込みがあるとしたら、それは意識して取り除くべきだと思います。