今シーズンも、MLB(メジャー・リーグ・ベースボール)エンゼルスの大谷選手の活躍から目が離せません。
昨シーズン、いわゆる二刀流でMVP(最優秀選手)に選ばれた大谷選手は、今年は打者として何本のホームランを打ち、投手として何勝するのか、野球ファンならずとも関心の集まるところでしょう。
その大谷選手が今シーズン第1号・2号となる1試合2本のホームランを打ったのは、4月15日のことでした。ただ、その様子を伝える映像を見て、もしかしたら違和感を覚えた人がいるかもしれません。
なぜなら、大谷選手はその日、いつもの背番号17ではなく、42番をつけていたからです。
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今から75年前の1947年4月15日、MLB初の黒人選手が誕生しました。名前をジャッキー・ロビンソンといいます。当時のアメリカには根強い黒人差別があり、黒人と契約するチームは全くありませんでした。
そうした中でドジャースというチームの選手となったジャッキーは、相手チームの白人選手はおろか、自分のチームメイトやファンからもヘイトスピーチ並みの誹謗・中傷を受けます。
グラウンドでは「野球は白人のスポーツだ」「ここはお前の来る場所ではない」といった罵声を浴びせられ、相手チームから対戦を拒否されたり、わざとデッドボールを投げられたりすることもありました。
また、チームメイトの中にさえ「黒人と一緒にプレーすることはできない」と、他チームに移籍してしまう選手もいました。それでもジャッキーは、常に紳士的にふるまい、決して相手を攻撃しませんでした。
なぜなら、ジャッキーの心には、ある強烈な一言が刻まれていたからです。それは、自分をMLBに誘ってくれたブランチ・リッキーという、当時のドジャース会長の言葉でした。
「やられても、やり返さない勇気をもて!」
これが、ブランチ・リッキー会長がジャッキーに伝えた言葉です。
「君は、黒人初のメジャーリーガーになるという困難な戦いに挑むことになる。その戦いに勝つためには、偉大なプレイヤーになるだけでなく、人間的にも尊敬される存在でなければならない。そのためにも、やり返さない勇気をもつのだ」
その言葉を忘れず、プレーで見返すことだけを考えて努力したジャッキーは、徐々に素晴らしい成績を残すようになります。そして、チームの優勝に貢献したり、ついには大谷選手と同じ最優秀選手に選ばれたりもしました。
現在、MLBの全30チームが、ジャッキー・ロビンソンの背番号42を永久欠番にしています。永久欠番とは、その番号を付けていた選手に敬意を表し、同じ番号を他の人が使わないようにする制度です。
それだけでなく、ジャッキーが初めてMLBのグラウンドに立った4月15日を「ジャッキー・ロビンソン・デー」とし、毎年この日だけは、30チームの選手全員が背番号42をつけて試合をするようになりました。
「やられてもやり返さない勇気」は、チームを越え、人種を越え、時代を越えて、多くの人々の心を変えていったのです。
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以前、あるTVドラマで主人公が使う「やられたら、やり返す。倍返しだ!」という台詞が流行りました。しかし、考えてみればこの言葉は「やり返したら、さらにやり返される」ということも意味しています。
一つの暴力がまた次の暴力を生むという暴力の連鎖は、腕力や武力、言葉、SNSも含め、あらゆる暴力に言えることです。
そう思うと、もしかしたら本当に人を変え、世の中を変えることができるのは、「やられたら、やり返す勇気」ではなく「やられても、やり返さない勇気」なのかもしれません。
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今日の話が、これからの世の中に必要な「本当の勇気」について考え、全ての暴力を否定する端緒になってくれたら幸いです。