教師という職業は、人にものを教える以上、言葉の力を大切にしなければならない仕事だと考えています。そして、校長である私が、何よりその言葉の力を発揮しなければならないのは、こうしたスピーチにおいてです。
少しでも生徒の心に残るようなことを、言葉で伝えたい。少しでも生徒の力なれるようなことを、言葉で伝えたい…。それは、私がスピーチ原稿を考えるたびに抱くささやかな夢でもあります。
しかし、残念ながら話し終えた後は、破れた夢に落ち込むことの方が多くあります。伝えたかったことの半分も、伝わらなかったのではないか? せっかく聴いてくれた生徒の心に、何も残せなかったのではないか…?
振り返ってみれば、朝礼や儀式で話すたびに失敗して、落ち込んで、やり直して、また失敗して…という繰り返しを、約18年間続けています。
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そんな私が、心の支えにしている詩があります。
武者小路実篤という人の『矢を射る者』という詩です。
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俺の放つ矢を見よ 第一のはしくじった 第二の矢もしくじった 第三の矢もまたしくじった 第四、第五の矢もしくじった だが笑うな いつまでもしくじってばかりはいない 今度こそ 今度こそと 十年あまり 毎日、毎日 矢を射った まだ本物ではないにしろ たまには当たりだした 見よ 今度の大きな矢こそ 人類の心の真っただ中を 射当ててみせる そして抜けない矢を 俺の放つ矢を見よ
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実は2学期末、この詩の【まだ本物ではないにしろ たまには当たりだした】と思わせてくれるような出来事がありました。それは9年生・国語(書写)の授業のことです。
書写の教科書には、自分の出会ったお気に入りの言葉をまとめる『名言集を作ろう』という教材が載っています。9年生はそれに取り組んでいたのですが、多くの人が偉人の言葉や、「愛」「希望」といったテーマ別の言葉を集めている中、なんと複数の人が『校長名言集』を作ってくれたのです。
後日、その人たちが完成した『名言集』を見せに来てくれました。それを見た私は、自分がスピーチ(校長通信)で用いた言葉や、行事等の挨拶で使ったフレーズを、よく覚えていてくれたと感激しました。
そして、ある人が表紙に書いてくれていた『心動く、クスッと笑える22の言葉 3年間の思い出』というタイトルを見た時、思わず目頭が熱くなりました。
やはり2学期末、これも9年生を対象に、私は入試の面接練習をしました。その練習で、私は「何か将来の夢はありますか」と尋ねることがあります。そんな質問をしたある9年生から、面接後の雑談で「校長先生、諦めなければ夢は必ず叶いますか」と逆質問されました。
実は私には、その問いに対する明快な答えがあります。ですから、その時も迷うことなくはっきりと、こう即答しました。
「全ての人の夢が、必ず叶うとは限りません。しかし、夢を叶えた人は全て、夢を諦めなかった人たちなのですよ」
先の『校長名言集』は、ほんの小さな夢かもしれませんが、そんな自分の答えが間違っていないことを証明してくれた出来事でした。
名言といえば、明るいキャラクターとポジティブな名言で知られる元プロテニスプレーヤーの松岡修造さんが、以前こんなことをおっしゃっていました。「100回叩くと壊れる壁があったとする。でも、みんな何回叩けば壊れるかわからないから、99回まで来ていても途中で諦めてしまう」
新年を迎え、叶えたい夢を新たにした人も多いことでしょう。そんな皆さんにお願いがあります。どうかその夢の的を射貫くまで、何回外しても「矢を射る者」であり続けてください。松岡さんの言葉を借りれば、たとえ99本の矢を外しても、次の100本目を信じられる人であってください。
射ることをやめた時、矢は永遠に的に当たらなくなるのですから。